魚病情報 疾病被害の状況と対策 疾病対策
疾病対策
疾病の予防や治療の方法
1 予防
魚の疾病において、治療技術が確立しているものは細菌を病原体とする疾病のうちの一部のものだけであり、多くの疾病においては治療は不可能といっても過言ではない。このような治療方法のない疾病が発生してしまえば、餌止めや飼育環境の改善などをして病気が終息することを待つ以外に方法がない。すなわち、これらの疾病では発病しないように予防することが最も大切な対策である。
(1) 病原体と疾病の蔓延
疾病の発生には、病原体の量や強さなど病原体側の条件、魚の健康状態および水温、pHなどの環境の条件が深く関係している。すなわち、病原体、魚および環境の三つの要因がある条件になったときに疾病は発生する。病原体に感染した魚の多くは発病し、やがて死亡する。しかし、必ずしもすべての病魚が死亡するわけではなく、回復する個体も多い。また、病原体に感染しても発病せず、外観的には正常魚と変わらない状態を保つこともある(不顕性感染)。このような病魚や死亡魚あるいは不顕性感染魚は病原体を環境中に撒き散らす源となるので、これらを放置しておくと疾病は水槽内はもちろん、水系全域に蔓延し、重大な被害をもたらす結果となる。したがって、常日頃から魚の行動をよく観察することにより異常を早期に発見し、死亡魚、衰弱している魚や異常な行動をする魚などは速やかに取上げるようにすることが、疾病の蔓延を防ぎ、ひいては疾病による被害を最小限に食い止める上で極めて重要である。
(魚類防疫技術書シリーズ]V最近問題となっている魚病(社)日本水産資源保護協会発行より)
(2) 病原体と防疫・予防
すでに利用されている養魚場には各種の病原体が存在していると言える。これに 対して新しい養魚場は病原体に汚染されていないと考えられ、実際に疾病の発生も少ないことが知られている。しかし、そのような養魚場も養殖を続けているう ちに疾病による被害が問題となってくる。それは、病原体が何らかの形でその養魚場に持ち込まれたからに他ならない。病原体が養魚場に入ってくるルートとし ては、病原体を保有する種苗、病原体に汚染した飼餌料などがある。また、人や輸送・養殖器具機材に病原体が付着して持ち込まれるほか、他の養魚池で使用し た飼育水の流れ込み、養魚場やその周囲に生息する魚、水鳥、魚食獣など、動物を介して侵入することが考えられる。
他 から持ち込まれた病原体だけでなく、環境中に常在する細菌も、魚の健康状態が悪化し、魚の生態防御機能が低下したときなどには疾病を引き起こすことがあ る。魚の健康状態を左右する要素としては環境と飼餌料が大きい。適正な飼育環境(水温、水流、溶存酸素量など)のもとで、栄養のバランスがとれた飼餌料を 与えて飼育すれば、魚の生体防御機能は十分に発揮され、多少の病原体が存在しても病気になる可能性は低い。
したがって、疾病の発生していない種苗を入れる、搬入前に病原体の検査を行う、使用する器具機材は消毒する、飼育排水の消毒や飼育施設を隔離するなどして、 病原体を持ち込まない、持ち出さないような防疫対策を講じることが肝要である。水系や地域全体で、各種の対策を一斉に実施することが防疫の実効を上げるう えで大切なことである。
また、良好な飼餌料を与え、適切な飼育管理のもとで魚を健康に飼育することが、疾病の発生を予防する根本であることを忘れてはならない。
(魚類防疫技術書シリーズ]V最近問題となっている魚病(社)日本水産資源保護協会発行より)
(3) 防疫の実施例
養魚場内に進入する車両のタイヤは消毒液(逆性石鹸)を満たした浅いプールを通すか噴霧器で消毒液を吹付けるかして消毒する。
人も長靴に履き替えて消毒液に足を漬けてもらう。
特に他の養殖場から来た車両や人の場合は入念に消毒する。
活魚を導入する場合は、導入もとの養魚場の情報をできるだけ集め、疾病が発生していないか確認する。
用水に河川水を用いている場合には、できれば紫外線やオゾンにより殺菌したほうがよい。特に上流に他の養魚場がある場合には注意が必要。
万一病気が出てしまったら、それが養魚場全体に広がってしまわないよう、発病している魚群を隔離し、できるだけ早く焼却あるいは埋設処分する。
隔離する方法は、まず、発病している魚群を最も下流の水槽に移す。そしてタモやブラシなどはその水槽専用とし、その水槽の水が他の水槽に入らないようにする。道具類は使用のたびにカルキや逆性石鹸で消毒する。
出荷や池換えで水槽が空いたときにはカルキなどで水槽の消毒を励行するように心がける。ただし、消毒に用いたカルキはそのまま排水せず、ハイポで中和するなどして毒性を無くしてから排水する。
死亡魚は見つけ次第すぐに取り上げる。
池掃除をこまめにし、糞や残餌を除去する。
普段から飼育環境を良好に保ち、健康な魚を育てるように心がける。魚が健康なら、たとえ病原体に感染しても発病しない疾病も多くある。
(4) ワクチンによる予防
アユのビブリオ病においてはワクチンの有効性が確認されており、製造承認され市販されている。この疾病においてはワクチン処理はたいへん有効な予防手段である。
2 治療
魚類養殖における治療とは、発病した個体を治すというよりも、日々死亡する個体数を減らす(日間死亡率の低下)という意味合いが強い。
(1) 投薬
病原体が細菌である疾病と寄生虫である疾病の一部では、いくつかの薬剤が治療に有効であることが確認されており、水産用医薬品として承認されている。これらの疾病では投薬治療が有効である。
投薬治療が有効な疾病
ウナギ…パラコロ病
アユ…ビブリオ病 冷水病
(2) 飼育環境の改変
投薬による治療方法がない疾病では、飼育水温を上げることや、給餌を数日間止めること(餌止め)などによる方法で対処することが有効なものもある。
飼育環境の改変の有効性が認められている疾病例
ウナギ…ウイルス性血管内皮壊死症 飼育水温上昇、餌止め
アユ…冷水病 飼育水温上昇
細菌性鰓病 飼育水塩分濃度の上昇
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