静岡県水産・海洋技術研究所 浜名湖分場


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トレーサビリティについて

トレーサビリティーとは何か

最近、食品のトレーサビリティーがよく話題にのぼる。牛肉のBSE 問題や食品表示の偽装事件により、消費者の食品の安全性に対する信頼は地に落ちてしまった。消費者がスーパーなどの店頭で食品を手にするとき、この食品は いったいどのような履歴を経て今ここにあるのか、これまでそれを知るすべはなかった。これではいったん地に落ちてしまった信頼を回復することはできない。 そこで、店頭にある食品の履歴を、消費者自身が簡単に知ることができるシステムをつくり、それにより消費者の信頼を回復するとともに、それのできない商品 との差別化を図ろうという動きが急速に進んでいる。traceability(トレーサビリティー)のtrace(トレース)には、跡をたどる、追跡す る、由来を明らかにするなどの意味がある。また、ability(アビリティー)はできることという意味である。すなわち、トレーサビリティーとは追跡で きること、あるいは由来を明らかにできることという意味である。

 

この動きからウナギ・アユ養殖業も無縁ではいられない。店頭にあるこのウ ナギの蒲焼は、いつどこで取れたシラスウナギを誰がどんな餌を与えて、どのような方法で育てたものか、その途中で薬は使わなかったのか、もし使ったのなら きちんと決められた用法・用量を守ったのか、育ったウナギはいつどこへ出荷されたのか、そしてどこの加工場で蒲焼にされたのか、さらにどのような流通経路 を経て今ここにあるのか。これらを明らかにできないものは、近い将来市場から排除されてしまうだろう。これは養殖アユについても同様である。このうち、養 殖生産者が責任を負わなければならない部分は、種苗の池入れから出荷までの部分である。

 

トレーサビリティーが必要な理由

こ のように書いてくると、まず初めにトレーサビリティーありきという感じになってくるが、実はそうではないのである。トレーサビリティーをうんぬんする前 に、まずなぜトレーサビリティーを確保しなければならないのかを考える必要がある。「消費者の信頼を得るため」それも確かに理由の一つではある。しかし本 来の理由は「養殖生産のポリシー」を実現している証拠を残すということである。

 

「養 殖生産のポリシー」とは、養殖生産者の養殖に対する主義、あるいは考え方といったものである。たとえば、「私は薬を使いません」とか「薬は使用基準を守っ て使います」とか「品質の良い魚をつくるためにこういう良い餌を与えています」などといったものである。こういうことを口でいくら言っていても、証拠がな ければ消費者に信じてもらうことはできない。「薬は使用基準を守って使う」などということは当然であり、ほとんどすべての生産者が行っていることだが、そ れを証明する証拠がないため、いまだに養殖魚は薬漬けなどという風評を払拭できずにいる。

 

も しここにしっかりと記録された投薬記録や給餌記録があれば、それをこれこのとおりと示すことにより、自分の言っているポリシーはきちんと実践されていると いうことを堂々と示すことができる。これがトレーサビリティーを確立することの本当の価値なのである。よって、まず自分のポリシーは何かをはっきりさせ、 そのポリシーが実現されていることを示すにはどのような記録が必要かを考え、そしてその記録をつけるというのが本来の進め方である。

 

と はいうものの、トレーサビリティーのない食品は市場から締め出される傾向にあり、その確保は一刻の猶予もない状況にあることは確かである。ポリシーなどな くてもとにかくトレーサビリティーを確保しろというのが現実である。そこでそういう要求にこたえるため、どのような記録をさしあたりつける必要があるか、 以下に記したいと思う。

 

必要最低限の記録

ウナギ・アユの食品としての安全性に影響する要因は餌、薬および飼育用水である。このうち餌と薬は生産者がコントロールできる範疇にあり、この2項目についての記録が必要最低限の記録となる。今般の薬事法と関係省令の改正に関連して、水産庁からも薬と餌について記録するよう努力せよとの指示が出された。具体的にどのような事項を記録すべきかを第1表に示した。

第1表にジャンプします

トレーサビリティーのある記録

必要最低限の記録だけでも、その養魚場において魚に与えられた餌と、使わ れた薬およびその使用状況を明らかにすることはできる。ただし、これらの記録だけでは、たとえば○月△日に出荷されたウナギの投薬履歴を示せと言われても できない。すなわちトレーサビリティーがないのである。また、A社とB社の配合飼料を使っていて、そのうちA社の配合飼料に有害物質が混入していたことが 明らかになったとする。混入した直後にそのことがわかればよいが、何ヶ月も後になってからわかった場合、トレーサビリティーがないため、今現在飼育してい るウナギのうちどの群れがその問題のあるA社の餌を与えられたものなのか区別することができない。A社では問題となる餌をロット番号で発表するであろうか ら、その餌が納入された養魚場もすぐ判明する。このとき、問題のないB社の餌を与えたウナギを区別できなければ、その養魚場のウナギはすべてA社の餌を与 えられたとみなさざるを得ず、全面出荷停止となってしまう。ここでトレーサビリティーのある記録があれば、B社の餌を与えたウナギを区別することができ、 全面出荷停止をまぬかれることができる。もちろん、出荷停止に伴う損害はA社に賠償を請求できるが、トレーサビリティーのある記録をつけていなかったため に生じた損害まで賠償請求できるかは危うい。

 

トレーサビリティーのある記録とするにはどうすればよいか。それは種苗の 池入れから出荷までの間の魚群の動きを記録することである。すなわち、池入れ、分養および出荷の記録をつけるということである。このうちとくに分養の記録 が重要である。分養時には、ひとつの群れをいくつかに分けたり、またはいくつかの群れをひとつにまとめたり、あるいはその両方を行ったりして、魚群は複雑 な動きをすることが多い。ここをしっかり、かつ後から見てもわかりやすいよう記録しておくことがトレーサビリティー上重要である。そのためには、分養記録 を取上げの記録と収容の記録に分けるとよい。取上げの記録にはその池から取上げられた魚の総重量を記録し、さらにそれをどの池に何kg収容したかを記録する。収容の記録はその池に収容された魚はどの池から取上げられたものが何kgで合計何kgになったかを記録する。

 

トレーサビリティーのある記録とするためにもうひとつ大切なことがある。 それは魚群に番号をつけることである。池番号だけではトレーサビリティーを実現できない。なぜなら、ひとつの池には入れ替わり立ち代り違う魚群が入るから である。後から魚群の動きを追跡するとき、分養記録に池番号しか記録されていないと、確実な追跡は困難になる。すなわち、「魚群番号」が飼育履歴を追跡す る際の唯一の手がかりとなる。池入れ、分養および出荷のすべての記録に魚群番号を記録しておくことにより、出荷からシラスウナギの池入れまでさかのぼって いくことができるのである。魚群番号のつけ方はいろいろあり、生産者各自がそれぞれつけやすい方法を考えればよい。第2表につけ方のひとつの例を示したが、要は出荷したウナギの飼育履歴をシラスウナギの導入時まで確実に追跡できるようになっており、かつ間違ってつける恐れのないものであればよいのである。

第2表にジャンプします

 

参考資料

1)舞田正志東京水産大学助教授「トレーサビリティーの現状について」講演録.平成15年5月28日静岡市にて日本養鰻漁業協同組合連合会主催.

2)今すぐ役立つ養殖管理マニュアル.社団法人大日本水産会.

(吉川昌之:ウナギ・アユ養殖におけるトレーサビリティー(「はまな」第503(2003年8月)号)を再録)

第1表 薬と餌に関して(必要最低限)記録すべき事項

1 水産用医薬品に関する記録

(1) 購入時の記録

・ 購入年月日、医薬品の商品名、ロット番号、購入数量、納入業者名

※ 上記の項目が記されている納品書でも可

 

(2) 使用時の記録

・ 医薬品使用の開始年月日と終了年月日

・ 使用した池の番号

・ 発生している魚病の名前

・ 使用した魚の尾数(推定で可)、平均魚体重(ウナギの場合kg当たり本数(P)でも可)および総魚体重

・ 使用した医薬品の商品名およびロット番号(あるいは購入時の記録の番号)

・ 用法(飼料添加、薬浴等)および用量(○g/kg魚体重/日)

・ 医薬品の投与日数と総使用量

・ 当該医薬品を投与した魚を出荷することができる年月日(休薬期間終了日)

・ 出荷前に保つべき換水率とその日数、および実際にその換水率にした年月日と出荷年月日

(ウナギの場合)

 

(3) 在庫の記録

・ 医薬品の商品名およびロット番号(あるいは購入時の記録の番号)

・ 保管場所

・ 当該医薬品を使用した年月日と使用量、およびその結果在庫として残っている当該医薬品の量

 

2 飼料に関する記録

(1) 購入時の記録

・ 購入年月日、飼料の商品名、ロット番号、購入数量(○kg/袋を◇袋)、納入業者名

※ 上記の項目が記されている納品書でも可

 

(2) 使用の記録

・ 各魚群(各池)に与えた飼料について

  飼料の商品名

  ロット番号(あるいは購入時の記録の番号)

  その飼料をその魚群に与えた期間(始めの年月日と終わりの年月日)

  そのときの魚のサイズ(ウナギの場合kg当たり本数(P)でも可)

 を記録する。

※ 日々の給餌記録に、上記項目がわかるように、飼料の商品名とロット番号(あるいは購入時の記録の番号)をメモしておくとよい。

第2表 魚群番号の付け方の一例

1 番号は5桁とし、上2桁は当該年の西暦の下2桁とする。

 

2 番号の下3桁は、暦年の当初より、001から順につけていく。番号をつける順番は、番号をつける必要が生じた順につけていく。新仔やシラスウナギを優先したり、ヒネ仔を後回しにしたりはしない。(単純に順番どおりに番号をつけるほうが間違いが生じなくてよい。形態により区別したりしようとすると間違いの元になる)

 

<例>  

2003年最初の作業がヒネ仔の池替えでそれを3面の池に収容したとすると、それらの魚群番号は03001、03002および03003となる。次にシラスウナギを池入れし、2面に収容したとすると、それらの番号は03004と03005となる。次の作業で番号03002の魚群を出荷し、残った群をひとつの池に収容したとすると、その番号は03006となる。次いでクロ仔となった03004と03005をそれぞれふたつずつの池に分養したとすると、それぞれ03007と03008および03009と03010となる。

12月となって、魚群番号が03055まできているところで、新たにシラスウナギを1面に池入れした場合は、その番号は03056となる。

 

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