水技研らいぶらりぃ 水技研デジタルアーカイブス:さかなあれこれ フグ
フグ (平成19年12月4日 掲載) ―天然物に強い毒性―
古来「フグは食いたし、命は惜しし」といわれるように、フグ類には強い毒性があることが知られています。フグの仲間は世界中の熱帯から温帯域に広く分布し、日本近海にも50種を超えるフグ類が生息しています。そして、日本近海のフグ類のほとんどが体のどこかに毒を持っています。フグ類の中でも高級魚として知られるトラフグは、肝臓と卵巣に毒を持っています。フグ毒の成分は、テトロドトキシンと呼ばれる物質で、その毒性は青酸カリの500倍から1,000倍ともいわれ、わずか数ミリグラムで人を死に至らしめます。 このフグ毒ですが、フグ科の魚だけが持っているかというと、実はそうではありません。魚では、熱帯の海に住むツムギハゼというハゼ科の魚もフグ毒をもっているほか、貝類やカニ類、海藻の仲間からもフグ毒が見つかっています。ところが、生簀で養殖されたフグの大半は無毒であるといわれています。では、フグ毒はどこからきたのでしょうか?これまでの研究によれば、フグ毒は天然の海水中に存在する海洋細菌が作り出し、それが餌を通してフグの体の中に入り、蓄積されていることがわかりました。フグ毒が体に蓄積される仕組みについてはまだわかっていませんが、フグは自分の身に危険が迫ると、体の表面からフグ毒を出し、敵から身を守っているらしいことがわかってきました。われわれ人間にとっては厄介な毒ですが、フグにとっては身を守るひとつの手段なのかもしれません。 フグ毒は加熱しても無毒化されないうえに、現在のところ解毒剤もないという大変恐ろしいものですが、フグ中毒の多くは、釣ったフグを素人が料理して食べることで起きており、免許を持った調理師が処理したフグでは中毒は起きていません。例えばトラフグでは、調理師が食べられる部分(筋肉、骨、皮、ひれ、精巣)と、毒があり食べられない部分(目玉、えら、精巣以外の内臓など)にきちんと分け、毒のある部分は鍵つきの箱に入れられ、厳重に管理しています。 静岡県内では、数年前から浜名湖周辺の舘山寺などで、遠州灘の天然トラフグを味わうための取り組みが始まっています。地元で獲れ、さらに、専門の調理師が処理した安全でおいしい天然トラフグを一度味わってみてはいかがでしょうか。 (県水産技術研究所主任研究員 小泉鏡子)
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