水技研らいぶらりぃ 海のこと(潮の流れ等)を調べる:駿河湾深層水 駿河湾深層水について
駿河湾深層水について これは「静岡の文化 71号」に掲載されたものです 静岡県水産試験場 研究主幹 五十嵐保正
深層水とは 大西洋の北、グリーンランド沖で冷やされた海水が海底に沈み、水深数千メートルの深層をゆっくりと流れ、2000年余の歳月をかけて太平洋に到る。この地球規模の流れを海洋学では「深層水」と呼んできた。しかし、最近流行の「深層水」とはこの流れよりはるかに浅い水深200〜300m以深の海水を意味する。地球上の海の深さは平均すると約3,800mであるから水深200mはほんの表面にすぎない。なぜ、このような海水が「深層水」と呼ばれて注目されるのか。それは、水深が200mより深くなると太陽の光がほとんど届かないため表層と異なる特性を持つからである。すなわち、水温が低く周年一定であり(低温安定)、光を必要とする多くの生物が生息できないため、水中の栄養が消費されずに残り(高栄養)、細菌も少なく有害物質もほとんど検出されない(清浄)。こうした特徴を持つ深層水は水産をはじめ、食品、医薬品、発電等多くの分野で利用できると考えられている。しかも、深層水は地球の海の95%以上に相当し、循環、再生することから、クリーンで持続的に利用が可能な21世紀 の資源と言われている。
駿河湾深層水 駿河湾は水深が2500mで日本一深い湾である。しかも、太平洋に開口していることから黒潮系水、亜寒帯中層水、太平洋深層水と起源の異なる3層の水塊で構成される。水深200m以深を深層水とするなら3層の深層水が存在する全国的に希な湾と言える。そこで、昨年9月から水深397mと687m、二層の深層水の取水が始まった。日本で初めての深層水多層取水は駿河湾の地形のたまものである。駿河湾深層水の水温は397mが約10℃、687mが約5℃で周年安定しており、窒素やリンなどの栄養分は深くなるにつれて数十倍に増加する。また、表層に比べ微生物も少なく、深層水の特性である低温安定、高栄養、清浄性を有する。2層の深層水を比較すると水温や栄養塩濃度は異なるものの、塩分(約3.4%)や、マグネシウム、カルシウム等のミネラルには差がみられない。2層で最も違うのは微生物相である。397mには黒潮系、687mには親潮系のプランクトンが出現する。また、C14を利用した年代測定で687m層は千年以上前に深層へ沈み込んだ海水と推定された。国内で取水される深層水の多くが100年未満であることからすると、687m層は桁違いに長い年月を深層で過ごしていることになる。
駿河湾深層水の利用 取水した深層水を利用して豆腐、菓子、干物、缶詰等の食品を中心に100品目以上の商品が開発されている。また、海水魚の飼育や入浴、農業関係等広範囲に利用されており、企業だけでなく一般の利用者も多い。平成15年度からは脱塩水の供給が計画されており深層水の用途の拡大が期待される。深層水は現在5県7カ所で取水され、全国的にも新たな施設の建設や計画が進行しており、深層水の希少性は薄れつつある。既に「深層水」の表示が商品の付加価値となる時期は過ぎ、深層水商品の淘汰が進んでいる。このため、駿河湾深層水も二層取水の特性や静岡の地域性を生かした活用が重要な課題となっている。なお、平成14年11月からは、駿河湾深層水商品の品質向上のためにロゴマークを定め、一定の基準を満たした商品にこれを表示し、消費者が安心して利用できるよう努めている。
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