もくじ


研究リポート  南方漁場で漁獲されるカツオに脂はないのか?

南方漁場ってどこ?
鰹節用のカツオはどんなもの?
カツオの脂の量。それが問題だ。
南方カツオの脂を測る
どのような群れに脂があるか?
まき網で獲ったカツオは一本釣りのカツオより脂があるの?
南方カツオには身脂があるのか?

水産加工技術セミナーから29   第33回水産加工技術セミナー講演要旨
最近の魚の鮮度保持技術



イベント紹介1 
平成14年度の水産研究発表会が開催されました。

イベント紹介2 第10回静岡県水産加工品総合品評会開催


トピックス 小川定置網で珍しい魚が漁獲される。


調査船の動き
日 誌

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南方漁場で漁獲されるカツオに脂はないのか?

水産試験場では海洋水産資源開発センターと共同でカツオの脂肪含量調査を行っています。現在調査を行っていることは、東沖漁場におけるトロガツオの出現割合調査と鰹節原料となる南方漁場で漁獲されるカツオの脂肪含量調査です。今回は南方漁場で漁獲されるカツオの脂肪含量調査の結果について報告します。


南方漁場ってどこ?

 おなじ南方カツオでもまき網船が漁獲している海域と竿釣り船が漁獲している海域は若干異なっていますが、大まかにいって太平洋の赤道の周辺(南緯10度〜北緯10度)が漁場となっています。竿釣り船の漁場は赤道の北側が中心で、中南洋(北緯10度〜20度)のマリアナ諸島沖も含まれます。しかし近年、竿釣り船は価格の安いカツオ漁をやめて最近人気のビンナガ(別名ビンチョウ、トンボ)漁を行っているため、現在、南方カツオを主に漁獲しているのは、まき網船(海外まき網)です。まき網漁船の漁場はミクロネシア(ニューギニア沖、マーシャル諸島周辺、ギルバート諸島周辺、エリス諸島周辺)などですが、今回は近年主漁場となっているマーシャル、ギルバート、エリス諸島周辺について調査を行いました。
 これらの島々はそれぞれ北からマーシャル諸島共和国、キリバス共和国(ギルバート諸島)、ツバル共和国(エリス諸島)という独立国家になっています。このマーシャルやソロモン等の南太平洋域では昔からカツオが利用されており、特にマーシャルは戦前日本の委任統治領だったため、当時の日本政府の南洋開発政策によりカツオ漁業が盛んになりました。戦後は日本との合弁事業等により缶詰、鰹節(荒節=カビ付けをしていない煙で燻したままの鰹節)の加工が行われるようになり、缶詰は欧米、荒節は日本に輸出されて地域経済の核となっています。


鰹節用のカツオはどんなもの?

 鰹節はカツオの最も日本的かつ代表的な加工品です。現在の主な産地は鹿児島県と静岡県ですが、その他、三重、高知、宮崎、沖縄の各県でも生産されています。
 鰹節に使うカツオの内、小型のもの(3kg以下)は三枚おろしのまま亀節とし、それ以上の大型のものは側線部分から背側(雄節)と腹側(雌節)に切り分けて本節とします。鰹節には焙乾(広葉樹の焚火にあて煙で燻すと同時に熱で乾燥すること)までを行った荒節と荒節を磨いて黴付けを行った本枯れ節(枯れ節)がありますが、現在は本枯れ節の生産は少量となり、多くは荒節にした後、削り節(花カツオ、かつお削り節)や粉末にしてだし調味料の原料となっています。また、黴付けをするものでも削り節用には本枯れ節ほど形状にこだわらない荒本仕上げ節が用いられます。なお、荒本仕上げ節(本枯れ節)の削り節は「かつお節削り節」であり、荒節の削り節と区別されおり、主に振りかけ調味料として利用されています。
このように鰹節は堅く乾燥させてから削ってカンナ屑(?)の様に(これを花といいます)して使いますが、脂があると上手く削れず粉になってしまいます。また、色もきれいなピンク色ではなく、白っぽくなったり黄色くなってしまいます。さらに、鰹節の命である風味も脂があると損なわれてしまいます。そのため、昔から鰹節には脂のないカツオが利用されてきました。昔は、春から夏にかけて近海一本釣りで漁獲される、脂肪の少ないカツオを原料にしていましたが、近年では赤道周辺から南洋にかけての遠洋漁場でまき網により大量に漁獲されるカツオが原料となっています。
 これまで南方漁場で漁獲されるカツオには脂がほとんど無く、鰹節向きの魚であるとされてきました。ところが、近年、鰹節の製造業者から南方漁場のカツオに脂肪の多い魚が増えてきたという話があり、南方カツオの脂肪量が問題になっています。業者によっては以前の竿釣り船が漁獲していた頃は良かったがまき網が主体になった近年、脂が多くて鰹節に向かないカツオが増えてきたと言います。それではまき網でカツオを獲ると脂があるのでしょうか?それとも漁場が変わったためでしょうか?あるいは魚自体に脂が増えているのでしょうか?


カツオの脂の量。それが問題だ。

 鰹節原料にするカツオは基本的に脂の少ないものが良いとされていますが、そもそも脂肪量がどの位あると鰹節に向かないのかということははっきりと分かっていません。
 そこで、まず、鰹節の品質と脂肪量について調べるため、品質の異なる鰹節(荒節)を集め、非常に良い品質のもの(A)、普通に鰹節として問題ないもの(B)、なんとか削り用にできるとされたものを(C)、削り節にはできないが粉末にならなんとかできるものを(D)という4ランクに分けて分析を行いました。なお、鰹節をA〜Dに評価する作業は、焼津鰹節水産加工業協同組合にお願いしました。
 鰹節は左図の赤く示した部分を輪切りに切り出し、すべてを削って粉にして脂肪量を測定しました。分析は脂肪量の他に水分量とたんぱく質量も調べました。
 次に、この鰹節の脂肪量が原料の生のカツオの時に何%であったか推定しました。一般に魚肉のタンパク質量は魚種によりほぼ一定しています。一方、脂肪量と水分量は変動が大きく、脂肪量が増えた分だけ水分量が減るという関係にあります。そこで、鰹節の水分量を除いた乾物換算値から原料生ガツオの脂肪量を推定しました。カツオのたんぱく質量は他の魚種に比べ高く、原魚のタンパク質量を25%と仮定して脂肪量を推定しました。この推定値は輪切りにした部位の全体平均脂肪量に相当しますので、南方カツオの脂肪量調査で分析している表層血合肉部脂肪量に換算し直しています。
 分析の結果、下図のように、問題なく削り節にできるA、Bに評価された節は原魚推定値で平均4%前後(A は2.4〜6.1%平均3.9%、B は3.9〜5.5%平均4.6%)、最大でも6%以下の値でした。
 これに対し鰹節としては品質の劣るC,Dでは平均脂肪含量がそれぞれ8%、12%(C は5.2〜12.7%平均8.5%、Dは7.1〜26.2%平均12.5%)であり、すべて5%以上でした。原料脂肪量(表層血合肉部)が6%を越えるものには、問題なく削り節にできるものはなく、粉末にしかならないものはすべて5%以上であったことから、鰹節原料としての適正基準脂肪量を仮に5%として、南方カツオの脂肪量を評価することにしました。


南方カツオの脂を測る

 今回、調査を行ったマーシャル、ギルバート、エリス諸島周辺は下図のようにマーシャル諸島共和国、キリバス共和国、ツバル共和国のそれぞれの200海里経済専管水域(EEZ)が入り組んでおり、これらの200海里水域に囲まれるように公海(東経南緯公海および西経北緯公海)が存在しています。これらの海域で漁獲されるカツオについては、人工筏などに付いている群れは餌を食べておらず脂がない、一方、素群(すなむら)は餌を追っている群れで脂があるといわれています。また、漁場では列島線(マーシャル、ギルバート、エリス)の東側と西側で脂の乗りが違い、東側で少なく、西側で多いといわれています。そこで、これらの漁場で漁獲されるカツオの粗脂肪量を測定し、これらの定説が事実であるか検討を行いました。
 脂肪量を測定したカツオは、平成10、11及び13年度に海洋水産資源開発センターの調査船第18太神丸(南方海外まき網)の漁獲した25魚群221尾のカツオです。これらのカツオは、右図で示した魚体中央部位の表層血合肉部分の脂肪量を分析測定しました。


どのような群れに脂があるか?

 各魚群の漁獲位置および漁獲月日を示した図と、魚群中のカツオ1匹ごとの脂肪量のグラフを下図6〜8に示しました。脂肪量の棒グラフで色付きになっている部分は5%以上の脂肪があったカツオです。前述のとおり、鰹節原料としての脂の多い少ないの基準を5%とすると、平成10年度(図6)は脂の多いといわれる素群では1群(No.3)のみが脂のある群れで、残り2群は脂の少ない群だったことになります。また、平成11年度(図7)のサンプルはすべて人工筏付き群であり、No.2がやや多めだった他はすべて鰹節向きの脂肪の少ないものでした。平成13年度(図8)ではマーシャル列島線の東西で脂の乗りが違うかどうかを調べました。脂が多いとされる西側海域では分析した5群の内、No.10(人工筏)とNo.9(流木)の一部では多かったのですが、脂肪が多いとされる素群(No.5)はやや多い程度、残り2群は脂肪が少ないという結果でした。脂が少ないとされる西側海域では分析した3群(No.2、3、8)の内、No.3(人工筏)の一部で脂肪量の多いカツオが見られ、ここでも従来の定説を裏付けることができませんでした。




まき網で獲ったカツオは一本釣りのカツオより脂があるの?

 以前、鰹節用の原料カツオは一本釣りにより漁獲されていました。しかし近年、まき網により漁獲されるようになってから脂のあるカツオが増えたらしいということから、鰹節製造業者の中には漁法の違いにより脂の多いカツオが増えたのではないかという人もいます。一本釣りは表層にいるカツオを漁獲するのに対し、まき網は何百mという深さの網でカツオをすくい獲るため、(表層に比べれば)冷たい、水深の深いところにいるカツオは脂が多いのではないかと考えたようです。そこで今回、分析したまき網のカツオの脂肪量と過去分析した南洋一本釣りカツオの脂肪量を比較しました。下図を見ると、一本釣りの方は6kgを超える魚のデータがありませんが、一本釣りで漁獲されたカツオのにも脂肪量5%以上の魚が存在し、特に漁獲方法による脂肪含量の明確な違いは見られませんでした。
 実は、海面近くにいるカツオも200〜300mの深さにいるカツオも同じカツオで、上と下を行ったり来たりしているそうです。実際、まき網でカツオを漁獲する時は深いところにいても、群れを見つけた時は海面近くにいたもの(深いところにいる群れは見つけられない!)ですから、一本釣りもまき網も同じカツオを獲っているわけで脂肪量に差が無いのも当然です。


南方カツオには身脂があるのか?

 もう一つ、鰹節製造業者に言われていることに、最近の南方カツオには身脂のあるものがあるということです。カツオは脂が乗る部分は皮に近い部分(表面の部分)に限られており、中心に近い部分には殆ど脂肪がありません(1%以下)。ところが、この中の部分に乗っている脂を身脂といい、この身脂がある魚がいるというのです。
 そこで、通常は脂の乗っている皮から1cmの深さまでの肉を分析するのですが、身脂があるかどうかを調べるため、右図に示した背中側の深さ1〜2cmの肉の脂肪量を調べてみました。分析結果は下図11のとおりで、脂の少ないもの(表層で0.4%)から多いもの(同7.4%)にかかわらず、深さ1〜2cmの肉の脂肪量は1%未満(0.1〜0.3%)で、今回は鰹節製造業者がいう「身脂がある」カツオの存在を確認することができませんでした。
 今回の調査結果からは、従来いわれていた群性状(素群や人工筏付きなど)、漁獲海域(マーシャル東西海域)による脂肪量の多寡の傾向については明確な差が見られませんでした。過去の調査結果から脂肪量は年度変動が大きく、影響がいわれているエルニーニョとの関係も検討する必要があると思われます。特に、餌の量(摂餌量)や種類(イワシ類よりオキアミ、エビ類の方が脂が乗るという人もいる)は脂肪量の多寡に大きく影響を与えていると考えられますので、今後は胃内容物との関係を調べる必要があると思われます。

(利用普及部 高木 毅)


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第33回水産加工技術セミナー講演要旨

最近の魚の鮮度保持技術

近畿大学農学部水産学科 安藤正史

 近年,流通の発達により魚介類が海外からでも容易に消費者に届くようになってきている。しかし,魚介類そのものの鮮度低下が速いという状況に変わりはなく,鮮度保持の観点からはまだまだ改良の余地が残っている。
 鮮度の指標としては色・弾力性など様々なものがあり,これらは死後の時間経過とともに時々刻々と変化してゆく。これらの変化を安全な方法で抑制するのが鮮度保持研究の目的であり,これまでに様々な方法が開発され,その一部はすでに実用化されている。
 今回は,鮮度指標のひとつである死後硬直と魚肉の弾力性について,その変化の機構とその抑制方法に関する研究例を紹介する。

保蔵温度による硬直の進行の抑制

 魚体が死後,徐々に硬直してゆくのはよく知られた現象である。これは筋収縮のためのエネルギー源であるATPが消費され尽くしたことにより,筋肉が縮んだ状態で元に戻らなくなるために起こる。死後硬直は非常にわかりやすい鮮度の指標であり,この状態が違うだけで取引価格が異なるという調査結果も得られている。付加価値を付けるためには,いかにしてこの硬直の進行を抑えるかが問題である。そこで,硬直の原因となるATPの枯渇を遅らせるため,様々な温度管理が試みられた。タイ・ヒラメを用いた研究(岩本ら)によれば,10℃で保存した場合に最も死後硬直およびATPの枯渇が遅延するとされている。

脊髄破壊による硬直の遅延

 魚をしめる際に,針金などを脊髄に押し込んで中身を破壊する方法を行う場合がある。この方法により経験的に鮮度保持に効果があるとされてきたが,具体的な効果は知られていなかった。この効果については三重大の中山らにより,死後硬直の進行およびATP消費が抑制されることが明らかとなった。魚をしめると,筋肉の表面が激しく痙攣したり,30分ほどのちにばたつく傾向がある。脊髄破壊処理は自律神経系を破壊することにより,これらの無秩序な運動を抑え,ATPの消費を遅らせていると考えられている。

高圧飼育による硬直の遅延

 鹿児島大の永井らが,魚をしめる前に飼育水に高水圧をかけることにより魚体内の溶存酸素量を増加させ,死後も数時間は有酸素状態のようなグリコーゲンの分解が持続することで,結果的にATPの分解および硬直の進行が抑制されることを報告した。これはウナギの加工において有意義な結果となり,すでに実用化されている。

筋肉の弾力性の変化と筋原繊維

 魚肉は死後において最も硬く,時間経過とともに軟化してゆく。この軟化現象の原因については,筋肉の大部分が筋原繊維で占められる構造のため,筋原繊維の変化の面から特によく調べられてきた。長崎大の橘らは,筋原繊維が貯蔵中に切れやすくなるとともに,筋原繊維のZ線が不鮮明になっていくことを明らかにした。また,マダイを強制的に運動させると,筋原繊維が切れにくくなっていることを示し,肉質の変化と筋原繊維との関連性を示唆している。

コラーゲンの影響

軟化した筋肉では,筋細胞同士をつなぐ筋内膜の強度の低下が認められる。ちなみに軟化しないトラフグの筋肉では同様の現象は認められない。筋内膜を電子顕微鏡で観察すると,即殺直後には明瞭なコラーゲンの繊維構造が認められるが,軟化した筋肉では繊維の断片化あるいは消失が生じる。この結果は,筋内膜の脆弱化がコラーゲン繊維の崩壊によって引き起こされていることを示している。

血抜き操作による魚肉の軟化防止効果

血抜きが肉質に及ぼす影響について調べたところ,回遊性の魚種では軟化の開始が3〜9時間遅れた。一方,底生の魚種ではそのような効果は認められなかった。また,前者の血抜き個体において筋内膜のコラーゲン繊維の崩壊が遅延する傾向にあった。宮崎水試の寺山らはブリ・カンパチにおいて血抜きが肉質の変化を遅らせることを明らかにし,さらに自動脱血装置を開発している。血抜きによって回遊性魚類に軟化の遅延が認められたのは,コラーゲン繊維の崩壊を引き起こす物質が流失したためとも考えられる。今後,これらの物質が特定されれば,その阻害物質の検索などを通じて新たな鮮度保持方法の開発が期待される。

関サバの軟化

「関サバ」の名で知られる大分県佐賀関産マサバは,高価格で取り引きされるが,これには温度管理をはじめとした人為的な影響以外に,その生息環境も関サバの品質に影響していると考えられる。大分大の望月らは致死条件と貯蔵温度について比較し,即殺して0℃(氷蔵)よりも5℃で保存することが軟化の遅延に最も効果的であるとしている。また,生息海域の影響を調べると,三重県熊野灘において漁獲されたマサバの筋肉は関サバよりも柔らかく,軟化の進行が早いことが明らかとなった。海域の流速が大きく異なることから,その運動負荷の違いが肉質に影響していると考えられる。

「氷温」の活用

 零度以下で,しかも凍結しない温度帯を「氷温」と呼び,医学・食品学の分野で研究が進んでいる。そこでこの温度でマサバを保存したところ,再現性が乏しいものの,1日冷蔵後でも軟化しない個体が出現した。その際,コラーゲン繊維の崩壊も認められなかった。再現性が乏しいのは温度制御が微妙なためと思われるが,逆にそれが可能になれば軟化の進行を抑制できる可能性を示している。さらに,氷温庫を用いてきわめて緩慢に保存温度を下げたところ,マイナス5℃でも凍結しない,いわゆる過冷却状態を作り出すことに成功した。凍結によって生じるドリップなどの悪影響を避けつつ,長期保存が可能な方法として将来が期待される。

冷凍機械の進歩

 冷凍は長期保存が可能なものの,やはり未凍結とは違うというイメージがある。しかしながら,近年の冷凍機械の進歩は著しい。そこであらためて最近の冷凍機を用いて凍結品の品質評価を行った。その結果,凍結操作における最大のネックである氷晶の影響が魚種によって異なることがわかった。また,イセエビは凍結による悪影響を全く受けない。この原因を明らかにできれば,最新の機械との組み合わせによって魚類の品質を損なうことのない長期保存が可能になるかもしれない。

(2002年6月28日 第33回水産加工技術セミナーより)


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平成14年度の水産研究発表会が開催されました。

 本年も、水産試験場と栽培漁業センターの日頃の研究成果を基に、多くの方々に水産物の特徴や海や川の生物の生態や増殖方法、駿河湾深層水の利用方法などを知ってもらおうと11月22日に水産研究発表会を開催しました。
 80名を募集したところ100名を越える方々から参加の申込みがあったため、急遽会場の座席を都合し最終的に112名の参加者を得て開催することが出来ました。
 今回の発表会では、全部で7課題について発表がありましたが、より分かりやすい発表となるよう、紹介する内容や図表、写真などを工夫するとともに、発表方法も従来使用していたスライドやOHPではなく、パソコン画面を直接スクリーンに投影する方法で行いました。
 多くの方に水産試験場、栽培漁業センターの研究に興味を持って頂き大変感謝するとともに、今後の研究の励みとしてまいります。

 

平成14年度 水産研究発表会 発表題目
@人気食材、トンボマグロが増えたわけ理由
A駿河湾深層水で煮た釜揚げしらす
B駿河湾深層水の主要成分と食品利用における安全性
Cアワビの放流 〜多くの稚貝を生き残らせるには〜
Dウナギ種苗生産への挑戦
Eヤマトイワナの保護・増殖へのとりくみ
Fさかな、その変態と成長

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第10回静岡県水産加工品総合品評会開催

 静岡県水産加工業協同組合連合会主催の静岡県水産加工品総合品評会が12月6日にツインメッセ静岡において開催されました。品評会に出展された加工品は鰹節、さば節、宗田節、削り節、生利節などの節類、かまぼこ、黒はんぺん、揚物、伊達巻等のねり製品、塩鯖、ひもの、サクラエビ製品、しらす製品、佃煮(角煮)、うなぎ製品、焼き物、煮物、漬け魚、燻製など多岐に亘っています。それぞれ、部門別に行われた予備審査をパスした300点余りが本審査に出品され、独立行政法人水産研究センター中央水産研究所長の中村保昭氏を審査委員長に18人の審査員により審査が行われました。

 審査の結果、農林水産大臣賞には由比町のさすぼし水産の「むし蒲鉾末広」、沼津市の羽野シーフーズ株式会社の「カマス干物」、焼津市の株式会社富士七の「鰹本節」の3点が選ばれた他、水産庁長官賞9点、県知事賞12点を初めとする100点余りが表彰の栄誉に与りました。

小川定置網で珍しい魚が漁獲される。

 11月14日と27日に、漁業者から小川の定置網で珍しい魚が漁獲されたということで、水産試験場に魚が持ち込まれました。早速、図鑑等で確認したところ、いずれも南方性の魚でそれぞれグルクマ、カライワシ、ギンガメアジ、ホシセミホウボウと確認されました。特にグルクマが駿河湾で漁獲されることは大変珍しいことです。ギンガメアジは以前から御前崎等で釣り等により漁獲され、それ程珍しい魚ではありませんが、今回のような大型の魚体は毒を持つことがあり(後述)注意が必要です


標準和名:グルクマ

学名: Rastrelliger kanagurta  スズキ目サバ科  1114日捕獲

 この魚はサバの仲間で、特徴は、背中に黒い斑紋が並び、胸鰭の付近に黒い斑点が1個あること、生きている時は、体側の半分から上に4本の金色の縦縞があり、死ぬと縞が黒くなること、口をあけると、鰓耙と呼ばれる羽毛状の突起が密生していることなどです。食用とされ、東南アジアでは重要種です。この魚は西太平洋とインド洋の熱帯から亜熱帯域、そしてスエズ運河を通じて、地中海東部に分布するとされています1)。日本では沖縄県以南に分布するとされていますが、静岡県で採集されるのは極めて珍しいと思われます。



標準和名:カライワシ
 

学名: Elops hawaiensis カライワシ目カライワシ科 11月14日捕獲

 イワシと名前はついていますが、マイワシやカタクチイワシとは遠い仲間です。この魚の特徴は、下顎の下に喉板と呼ばれる板状の大きな突起があること、体色が、背中が淡青色で体側が銀白色であること、体が細いこと、背鰭は体の中ほどにひとつあり、後端が細長く伸びないことです。幼生期はウナギと同じくレプトセファルス幼生と呼ばれる木の葉のような形をしています。体長75cm程に成長します。食用としてはあまり利用されていないようです。この魚は主に南日本に分布し、県内では清水市で採集されたことがあるようですが2)、小川の定置で採集されるのは珍しいようです。



標準和名:ギンガメアジ 

学名: Caranx sexfasciatus
    スズキ目アジ科 11月14日捕獲

 アジの仲間です。特徴は、体高が高いこと、鰓蓋の上端あたりに黒色の小さな斑点が1個あること(この写真では不明瞭)、第2背鰭(後方の背鰭)と臀鰭の前部が鎌状であることです。また幼魚には暗青色の横縞があります。この魚の幼魚はよく川を遡り、天竜川の中流域で見つかったこともあるようです3)。静岡県では小型のものが沿岸部でよく採集されます。食用とされていますが、大型のものはシガテラ毒をもっていることがあり、この毒をもった魚を食べると下痢や吐き気などが起こります。食品衛生関係では、30cmを越えるギンガメアジを流通しないよう呼びかけています。大型のギンガメアジを手に入れても、取り扱いには十分注意しましょう。


標準和名:ホシセミホウボウ 

学名: Daicocus peterseni カサゴ目セミホウボウ科 1127日捕獲  


 ホウボウと名前がついていますが、この魚がどの仲間に近いのか学者によって意見が分かれています。特徴は胸鰭が長く尾鰭のあたりまで達すること、顔の後方から長い棘が伸びること(写真の魚は折れています)、頭に細長く伸びる棘があり、この長い棘と次の背鰭の間には棘がないことです。あまり食用にはなっていないようです。この魚は西部太平洋、南シナ海、インド洋に分布するとされています。日本では南日本に分布するとされていますが2)、小川の定置網に入るのは珍しいことです。
これらの珍しい魚が小川の定置網に入った原因ですが、最近黒潮からの沿岸域への暖水波及が強まり、沿岸の水温が上昇しています。南方性の魚が定置網に良く入るのは、このためかもしれません。

引用文献

1) Collett and Nauen (1983) FAO fish catalogue vol. 2. Scombridae of the world
2) 中坊徹次 (2000) 日本産魚類検索 第ニ版
3) 板井隆彦 (1982) 静岡県の淡水魚類


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